オーストリア特派員のワイン巡り報告④ 5月7日:ツァーヘル・醸造所編
前回はウィーン郊外にあるツァーヘルの畑でゲミシュターサッツのブドウ樹を見学しました。
ツァーヘル・醸造所へ潜入捜査!
畑から戻り、ワイナリーの変遷を聞きながら売店を案内してもらいました。
ご先祖は山から水を引いてくる水道工事屋さんで生計を立てたそうです。その後、ワイン事業に参入。アレックスさんはワインだけで生計を立てられる初めての世代だそうで、とてもラッキーだと仰ってました。
彼は「自然派ワイン」という言葉を使う事に違和感を感じているそうです。というのも、その昔は人的介入が少ないワインは当たり前だったから、それをわざわざ定義づける言葉を使う必要はないと思っている、と。
また、日本のオレンジワインの潮流について話題を振ると、
「こと日本においていうなら、いわゆるチャンキーでファンキーな凝縮感をわざと強くしているものは和食に合わないと思っているよ。僕らのオレンジワインもそうだけど、軽やかなスタイルの方が素材を大事にする食にはフィットするよね。僕の妻はフードジャーナリストのような事もしていて、フレンチや和食を作る事もあるから、ワインもそれに合わせたりしてるんだ」
と話してくれました。
土壌を知る事から始まる
醸造所入り口には、ブドウ畑の土壌の断面図が飾ってありました。(これ、作るのにいくらぐらいするんだろう…(´^`).。o)石灰岩(limestone)やレス (Löss)など土壌用語を覚えたとて日本で現物を見る機会は少ないので、この断面図はとってもわかりやすかったです。
この石灰岩にはマグネシウムの粒が混ざっていて、とても穴だらけです。上の層はあまり厚くないので、ぶどうの木やカバークロップの細い根に有機物を供給するために、上の土壌の有機物を増やすためにも、作業が必要です。そして、水分を求めて根が深くまで伸びると、純粋な石灰岩の土壌や砂利、砂岩があるように見えます。私たちが行ったぶどう園のようにいくつかの土壌は、地面にこんな感じで見えます。そして、上にこの黒いレス土壌があります。
それぞれの土壌では、水があるところまで根が伸びます。水分があるところまで4メートル、5メートルも深くまで根が伸びます。それは微気候によって大きく異なります。オーストリア寄りのレス土壌では、地面から10メートルも深くまで根が伸びています。そのぶどうの樹齢は40年以上になります。
地下の最下層にビオディナミに必要なプレパラシオンがありました。
醸造所の一番下の階にプレパラシオンを保管しているのは何か意味があるんですか?
この場所は外界から一番遠い場所だからだよ。ここは普段は電気も消して真っ暗だし騒がしい喧騒もない。微生物や土壌で働くあらゆるものにとって一番静かで落ち着く場所だと思うから、ここに保管しているんだ。
なるほど。形だけの実践ではなく、こうした細部にわたって丁寧に意識しているんだという事を感じるお話でした。
地下醸造施設から地上でのテイスティングへ
静かな地下からエレベーターに乗り、今度は建物の2階に上がるとテイスティングルームになっていました。
1つずつ丁寧に違いを説明してくれました。
これは91歳の祖母が庭の花壇で育てている花がモチーフなんだ。彼女にとってガーデニングが楽しみで生き甲斐になってるよ。
なるほど、だからワイン名もOMA(=おばあちゃん)というわけですね。
これらはツァーヘルの各畑から出てきた石だそうです。色々な土壌が存在しているのがわかりますね。
ワインに使用しているコルクも地元の素材で作られているんだ。僕らを取り巻く環境には豊かな森があるからそれらを活かしているし、ちゃんと土に還るようにしているよ。
ツァーヘル訪問まとめ
朝10時過ぎに到着してから、畑を見学し、ワイナリーに戻ってからはセラーを見て回り、試飲を終えたところで12時。たった2時間の事なのに頭がパンクしそうな情報量でした。
今回のツァーヘル訪問で感じた事
①土中生物から植物、動物、人のすべてが繋がっている
②家族の歴史や育った環境をとても誇りに思っている
③自らの役割は次世代に健全さを繋いでいく事だと認識している
アレックスさんの情熱はスゴく、話はひと時たりとも止まりませんでした。
彼がぜひ日本のみんなに伝えてほしいと言っていたこと ↓
ヨーロッパ初の「Regenerative Organic Alliance」認証取得予定
再生農業(Regenerative Organic Alliance)をヨーロッパで1番最初に導入する予定だよ!僕は、これこそがビオディナミの先にある目指すべき姿だと思って取り組んでる。農業はただの仕事じゃなくて、生きとし生けるものすべてに影響しているし、地球環境にも貢献し続けるからね。
オーガニック先進国オーストリア。首都であるウィーンで未来のワイン産業の在り方を見据えるアレックスさんの言葉に胸を打たれたことは言うまでもありません。休日の訪問にもかかわらず快く見学を受け入れてくれたことに心から感謝し、ワイナリーを後にしました。
次ページは、世界各国から集まったツアーメンバーと、丘の上のホイリゲで懇親会の様子です。